
英語上達には欠かせない!
フランクルさんは、母国語のハンガリー語を含め、大学で教えられるレベルの言語が12カ国語という「語学の天才」である。どの言葉も短期間に集中して学んだもので、留学して覚えた言語はひとつもないと言う。辞書を片手に本を読み、実践の場で修正していくのが基本で、上達のカギは「集中力」。数学者として世界的に名声が高く、ジャグラーとしても一流であるから集中力もけた外れなのだろう。その彼が、20年近くに及ぶ滞在を経てもなお、一番難しい言語は日本語であると言う。それほど難しい言語を操る日本人に英語ができないわけがない!と奮起する前に、フランクルさんが力説する「日本人に最も欠けている能力」を考えてみる必要がある。欠けている能力とは何か、そしてそれをどう養成していけばいいか教えていただいた。
ピーター・フランクル1953年ハンガリー生まれ。'71年ブダペスト大学数学科に入学。'77年オトボス大学大学院修了、数学博士号取得。'78年ハンガリー・サーカス学校にてジャグラーの免許取得。'79年フランスに亡命し、'80年代にはイギリス、西ドイツ、アメリカ、スウェーデンなどに招かれ講演や研究を重ねる。'88年より日本在住。'98年名誉あるハンガリー学士院のメンバーに選出される。世界各国で生活した小説のような遍歴と語学習得の様子は『世界青春放浪記 僕が11カ国語を話す理由(わけ)』(集英社文庫)に詳しい。『日本人のための英語術』(岩波新書)など英語関連の著書多数。現在国際数学オリンピック・日本チームコーチ、日本ジャグリング協会名誉会長など幅広く活躍中。
(※ハンガリー名は名字が先になる)
辞典を愛読して日本語に磨きをかけた
―今までに習得された言語と好きな言語の、順番をそれぞれ教えてください。 フランクル:ドイツ語、ロシア語、スウェーデン語、英語、フランス語、ポーランド語、スペイン語、中国語、日本語、韓国・朝鮮語、マレー語という順番で覚えました。もちろんハンガリー語が一番好きですが、外国語という条件なら、日本に住んでいることもあって日本語、響きが美しいフランス語、続いて中国語、ロシア語、英語の順でしょうか。 難易度では、日本語が一番であることは間違いありません。漢字、ひらがな、カタカナという文字種の多さもありますが、どの言語も初期段階は文字をかなり努力して覚えなければなりませんし、漢字だけをいえば、外来語が少ないこともあって中国語のほうが大変です。僕があえて日本語が一番難しいという理由は、当て字がたくさんあるからです。例えば「設楽」という名字を何と読みますか(と聞かれ、読めない私でした)。これは「シダラ」か「シタラ」です。こういう、かなり教育を受けた人にも読めない字があるのは、ほかの言語ではめったに見られません。 ―その日本語を、どのようにマスターされたのですか。 初来日は1982年で、亡命先のパリから数学の研究のために来日しました。来日前の3カ月間はパリの図書館でテープを聴いたり日本の童話を読んだり、パリにいる日本人に日本語を教えてもらったりして準備し、来日後は知り合った日本人を通じて覚えていきました。'88年から2年間日本に滞在した後、定住する決心をし、それからテレビ、歌、新聞、落語などありとあらゆるものから吸収し、日本語学校にも通いました。辞書に書かれている説明がわかってくると、がぜん面白くなってきて、漢和辞典や国語辞典を愛読していました。ちょうど日本はバブル期で、僕もテレビに出たり、週刊誌に連載を頼まれたり、講演の依頼を受けたりして、日本語で仕事をする機会がどんどん広がっていったのです。どの言葉も、勉強すればするほどその美しさや面白さがわかり、それが言葉を学ぶ醍醐味なんです。 いろいろな言語が話せる便利さのひとつは、相手の母国語に合わせられることです。例えば相手の苦手な外国語で会話すると、相手は緊張したり不自由だったりで、それは僕にとっても楽しくありませんし、また英語を第二言語として互いに話しても、英語はただのコミュニケーションの道具でしかない。情報の交換はできますが、道具は心が伴っていないから、その人の心のひだにまでは入り込めない。互いに母国語レベルの言葉だと、まったく違った会話を楽しむことができますし、僕にとっては言葉を変えることによって、ちょっとした旅行気分になれるのが楽しいのです。 |
世界中のほとんどの人が、語学を習得しようとするときに、同じ過ちを犯している |
「オフライン作業」をしなければ深い発見と大きな進歩はない
―ハンガリーで英語をどのように習得されたのですか。 フランクル:ほとんど独学でした。中学生のころ英語学校に3カ月くらい通って文法をちょっと覚えましたが、つまらなかったのでやめてしまいました。16歳のとき、アメリカ旅行に行く両親に頼んで手に入れた『プレイボーイ』を1カ月かけて読破し、これで英語力がかなり伸びました。 大学時代には数学の英語論文を書く必要があったので、本格的に勉強しようと思って古本屋でウェブスター英英辞典を買い、アーサー・ミラーやテネシー・ウィリアムズの戯曲をたくさん読みました。戯曲は会話が多いので、割合簡単に読めるのです。それからイギリスで作られた外国人向けの教材で慣用句や言い回しも勉強し、あとは実際に英語を使いながら覚えていきました。最初アメリカに行ったときは発音が悪くて、ことごとく直されましたが、短期間で直せました。 ―日本人が英語を学習するうえで重要なことは何だと思われますか。 フランクル:日本人だけでなく、世界中のほとんどの人が、語学を習得しようとするときに、同じ過ちを犯しているような気がします。学習法には、コンピューター用語に例えると、オンラインとオフライン作業があると思います。オンライン作業とは、人と話したり、授業を受けたり、テレビやDVDを見たり、ラジオやテープを聴いたりすることです。これらも大事ですが、これだけでは学習の効率が悪い。それは「どれも時間に追われている」からです。相手の言ったことが半分しかわからなくても返事をしないといけない、ニュースを正しく理解する前に、次のニュースが飛び込んでくるなど、完全に理解できないまま先に進んでしまう。 オフライン作業とは、これらオンライン作業で得たものをきちんと正しく理解する作業で、これが非常に大事です。さまざまな情報をきちんと整理し、不明な点を確認し、うまく表現できなかった自分の意見を英語の短い文章にまとめたりする。語いを増やすために新しい単語や慣用句をノートへ記し、何回も見たり、例文を作って覚えたりする。例えばCNNのニュースをひとつ聴いたら、即テレビを消す。そしてそのニュースを200語くらいの日本語にまとめ、そのニュースについて自分はどう思ったかを作文にする。最初は時間がかかるかもしれませんが、そのうち2、3分でできるようになります。それが自然にできるようになったら同じような長さの英文にする。複雑な表現や難しい単語を使う必要はありません。自分の言いたいことがはっきりしていれば、簡単な英語でも十分作れます。表現力と語い力はあまり関係がないということです。 これらのオフライン作業を通して、自分が勉強してきたことの正しさや上達が確認でき、それが楽しさや喜びにつながっていきます。オフライン作業を怠ると上達は非常に遅くなり、深い発見と大きな進歩もありません。「急がば回れ」という言葉がありますが、まさにそれです。 |
初来日のころ。お気に入りの浴衣を着てジャグリング。 |
自分の意見を英語で表現する訓練が人生を楽しくする
―日本人の英語上達の障害は何だと思われますか。 フランクル:今の日本人に一番欠けているのは、自分の意見をまとめて表現する力だと僕は思っています。これがおそらく日本人と外国人との最大の違いだと思います。例えば安倍さんが首相を辞任した。外国人が一番知りたいのは安倍さんの辞任について日本人それぞれがどう思うか、どういう意見を持っているかなんですよ。 日本人は自分の考えを発表する教育をされていませんから、自分で養っていくしかないのです。自分の意見をまとめて表現する力を訓練するのは、日本人にとってものすごくプラスになると思います。それは人生においてもとても重要なことで、そのほうが人生は楽しくなると僕は考えています。自分の考えをまとめる、さらに英語で表現すれば英語も上達しますから、一挙両得です。 アメリカ人の場合、初対面の人にも生まれた場所、家族構成、仕事など、自分のことをよく話します。外国人とコミュニケーションをとりたいのであれば、彼らと同じようなスタイルをとってほしいと思います。そうすることで「積極的なもう一人の自分」を作るきっかけになってほしいし、コミュニケーションを楽しめる日本人になってほしいと思います。積極的に話すことは、自分にとって絶対にプラスになります。もちろん、自分の話ばかりをするのは日本の社会にはなじみませんから、相手の話にもよく耳を傾けましょう。 また、英語を本気で勉強しようと思ったら、ほかの事は我慢して一切やらず、英語だけに集中するという強い決意が必要です。僕は特に語学能力が優れているとは思っていません。多少記憶力がいいかもしれませんが、集中してやったのは事実です。どの言葉も留学して覚えたのではありませんから、日本人が日本で英語を勉強するのと同じ条件です。負けず嫌いな性格もありますが、他人と比較しての負けず嫌いでなく、自分の置かれた状況や環境に対して負けたくない。それは自分との勝負だからです。語学の勉強は始めはすごく伸びますが、それから伸び悩みます。でもそこをじっと我慢して努力し続けると、また急激に伸びる時期がやってきます。それを何度も繰り返していくうちに、身についていきます。成果が見えなくても信じてがんばり続ければ、必ず結果がついてきます。 |
成果が見えなくても信じてがんばり続ければ、必ず結果がついてきます |
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