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巻頭インタビュー・アーカイブ

自ら英訳した一人芝居を
演劇の本場ロンドンで公演 
小宮孝泰  KOMIYA TAKAYASU
[俳優・タレント]
取材・文:竹野みつえ 撮影:蔵 真墨

「コント赤信号」のメンバー、小宮孝泰さんは、『JAIL TALK』(日本語版タイトルは『接見』)という英語の一人芝居を、演劇の国イギリスのロンドンで上演した実績を持つ。この作品は、小宮さん演じる弁護士が、留置場に被疑者を訪れ、淡々とした弁護士の語りだけで2人の人生を浮き彫りにしていくという、素人が考えても難易度の高いもの。青年時代からずっと望んでいた俳優の道を歩んできたものの、あるとき自分の演技に疑問を抱き、“カンフル剤を打つ”がごとく渡英を決意、翻訳を自身で始め、ロンドンで実現させたという役者魂に満ちた人だ。インタビューが終わると、小宮さんはちょうど始まったNHKラジオの英会話講座に、熱心に聞き入っていた。その姿からは、英語への熱意が強く感じられた。

小宮孝泰(こみや たかやす) 1956年神奈川県生まれ。明治大学文学部英米文学科卒業。'79年渋谷道頓堀劇場でコントの修行中、渡辺正行、ラサール石井とともに「コント赤信号」を結成、'80年『花王名人劇場』でテレビデビューし、人気を博す。'84年「赤信号劇団」を旗揚げ、演劇活動を盛んに行い、舞台・ドラマ・映画を活動の中心とする。2003年第一回文化庁文化交流使に任命され、'04年1月~5月までロンドンで日英文化交流に尽力。近年は狂言など、日本の古典芸能にも積極的に取り組んでいる。代表作に、舞台『星屑の町』シリーズ、テレビ『相棒』、映画『ゲロッパ』『釣りキチ三平』(3月ロードショー公開)など。全国行脚中のライフワーク『JAIL TALK』がお近くで上演されたらぜひご覧ください。なお、ロンドン滞在中の出来事の詳細は、http://www.loulan.org/essay.htmlで紹介されていて、旅の情報も満載。旅行ガイドにもお役立ちです!

自分の演技に疑問を感じ、ロンドンで俳優修業を目指す

―『JAIL TALK』をロンドンで演じられたきっかけや経緯を教えてください。

小宮:留学して演技を勉強したいと思い、2002年にロンドンへ下見に行きました。留学できたら『接見』という一人芝居を英語でやろうと、その年の暮れから勉強も兼ねて3カ月くらいで翻訳しました。その後、英文学の教授になっていた友人や、通っていた英会話学校のカナダ人の先生にも見てもらい、半年後くらいに完成しました。

まず日本で英語版を試しておかないと、ロンドンでやれる自信はありませんでした。それで日本人の客がほとんどでしたが上演すると、その噂を聞いた文化庁が第一回文化交流使に任命してくれて、'04年にロンドンで4カ月間滞在していた間に数回公演しました。

学生時代は、学科の中では英語が一番好きで成績もまあまあでしたが、勉強らしいことをしたのは大学受験くらいでした。大学では芝居や落語をやり、卒業後は「コント赤信号」でデビューしましたが、芸人としてバラエティーに出るのは向いてないと感じてましたね。

もともと俳優が目標だったので役者をやってましたが、40歳を過ぎたころに、安全でやりやすい演技にだんだんとなってきていることや、頭が固くなって自由な心を失ったような自分に気づきました。それで、国内のワークショップなどに参加して刺激を受けたりしていましたが、いっそ自分のことを全く知らない国でやってみようと思ったんです。

―1時間を超す芝居で、翻訳もセリフの暗記も大変だったのでは?

小宮: 今の形になって、自分の翻訳が残っているのは1割にも満たないと思います。暗記するのが大変でしたね。日本語の台本だと、1時間くらいのセリフは10日ほどで覚えられるんですけど、仕事をセーブして暗記に没頭できる環境を作っても丸々3カ月かかりました。4場構成なので1場ずつ覚えていったのですが、時間が経つと1場を忘れたりしているから、とにかく繰り返し繰り返し、ちょっとずつ、ひたすら覚えるしかなかったですね。

途中、カナダ人の先生にも見てもらって、どの単語に気持ちをのせたらいいのか確認したり、内容的なアドバイスもあったのでセリフを変えたりで。演技の根本は日本語版といっしょですが、一番不安だったのは、セリフを間違えたり忘れたりしたときにアドリブがきかないということなんですね。今でもその怖さはありますけど。

(英語劇で)一番不安だったのは、セリフを間違えたり忘れたりしたときにアドリブがきかないことですね。

「間」を重視する日本人と、ムダと切り捨てるイギリス人

―イギリスでの観客の反応はいかがでしたか。

小宮: 動きの少ない芝居なので、日本語版では「なるべく動きを大きく」という水谷龍二さん(作・演出)の意図で、弁護士には特異な持病があり、突然勝手に踊り出す舞踏病のようなおおげさな動きをするんですけど、ロンドンではリアルなほうがいいと言われて、動きを抑えてアレンジしました。

一番の違いは「間」の問題。被疑者が心情を明かすのを弁護士が聞いている場面で、「黙って聞く時間が長い、セリフを忘れてしまったように見える」って。ここは大事なところだ、黙っているときこそ一番能動的に芝居をしていると、いくら説明してもダメだと言うんです。考えてみたら、向こうではテレビや映画にはリアルな「間」はあるんですが、舞台の芝居ではずっとしゃべっているんですよね、シェイクスピアのような独白も含めて。だから黙っていると演技していないという概念があるんですよ。

滞在中に『魚の祭』(※1)という日本原作の公演を見たのですが、死者のお墓に見立てた水槽に献花する無言のシーンが3~5分あったんです。僕はそこが一番美しくて、死者に対するみんなの思いが出ている良いシーンだと思ったのですが、イギリスの批評家たちは、あそこはムダ、ゼロのスペースと言うんですね。そのくらい無音はダメなんですよ。でも「間」に関しては演技の先生に譲ったふりして、本番では譲らなかったですね。

それから「笑い」の違いです。日本だと観客がゲラゲラ笑うところを向こうではchuckle(くすくす笑う)程度なので、はっきり笑ってほしいと思うこともありました。でも笑いは身体や言葉から生まれるものだから、母国語でないと仕方ないなとは思います。

―プロの俳優のための学校、The Actors Centre(アクターズ・センター)にも通っていらっしゃいましたが、ここでの収穫はありましたか。

小宮:言葉を使うエチュードや寸劇で、冷や汗をかく場面はたくさんありましたが、面白かったですよ。若い人たちが多かったのですが、みんなヘタでも積極的に手を挙げるんです。自分はなぜ尻込みするんだろうと落ち込みましたが、うまく見せようとするから不安になるんだと悟ってからは、失敗してもいいからどんどん前に出て行こうと。その辺の姿勢は彼らから学びました。

酔っ払いの役でみんなを笑わせたり、セリフを忘れた俳優の役のときは、思いっきりド派手にやって、すごくほめられたのでうれしかったですね。日本人はおとなしいイメージがあるから、それをぶち壊してやろうと思ったんですよ。

RADA(※2)に入るのは、語学的、時期的に無理だったので、校長のニコラス・バーターさんの勧めで、『JAIL TALK』を個人レッスンで手直ししてもらい、すごく勉強になりました。

(※1)柳美里原作の舞台化
(※2)The Royal Academy of Dramatic Artの略。王立演劇アカデミー。1904年に創設された演劇学校。

失敗してもいいから、
どんどん前に出ていこうという姿勢を若者たちから学びました。

成功も失敗も自分次第、それが一人芝居の魅力

―『JAIL TALK』のほかにも文化交流使として、落語や落語の小道具の使い方などの実演も多くの場所でされていましたね。

小宮:ええ。そういうことを英語でやるのは初めてで大変でしたが、楽しかったですね。一番印象的だったのは、扇子や手ぬぐいの使い方を教えた後、新作落語を一席作らせるというカリキュラムのとき。ただし小道具は新しい使い方を考えるというルールでした。あまり期待していなかったのですが、扇子をバイオリンに見立てたりして、すぐやる積極性と面白さに感心しました。

特にメキシコ出身の若者が「オレはヒゲに使う」と言うので、それは体の一部だからだめ、と言っても聞かない。「ロバの面倒を見ていたら家が火事になってしまい、びっくりしてヒゲが落ちちゃった」というオチで、ヒゲに見立てた扇子を落とすんです。扇子を落としただけで元々生えてる口ヒゲはまだあるんだけど、話が古典落語みたいによくできていて場内爆笑で、僕も大笑いしました。

彼がすごいなと思ったのは、譲らない精神とわずか半日で日本文化を咀嚼(そしゃく)したこと。日本人ならルールでダメと言われると従うでしょう? でも彼はけっして譲らないし、教わった小道具のやり方もうのみにせず、違うものに仕立てたところ。そういうところは教えていて勉強になりました。

―2005年に『JAIL TALK』をエジンバラ演劇祭でも上演されていますが、ロンドンの時と違いはありましたか。また、一人芝居をされている理由を教えてください。

小宮:ロンドンにいたときから、エジンバラでもやりたいと思っていたんです。ロンドンで活躍している俳優の森尚子さんという方がセリフを推敲(すいこう)してくれて、それを覚えるのにまた2カ月くらいかかりました。批評家の劇評は好意的だったのですが、プロモーションの準備も全部自分で、しかも自費でやらなきゃならなくて、そんな時間もお金も十分になかったので、それが悔やまれますね。

一人芝居は、セットもほとんどないし、自分だけだから、どこでもできるという自由さと、良いことも悪いことも、成功も失敗も、全部自分にかかってくる、そこが大変だけど面白いところですね。『JAIL TALK』は、ニューヨークでも日本語と英語でやってみたいし、オーストラリアのアデレード演劇祭でもやってみたい。昨年末にやった次作の一人芝居『線路は続くよどこまでも』は30役くらいやったので、今度は2、3役に絞った作品とか、翻訳物の芝居とか、やりたいものがいろいろあって。50歳過ぎて人生も後半になってくると、やりたいことが逆に増えてきますね。

小宮さんがロンドン近郊の小学校の生徒に、落語のそばの食べ方を教えているところ。



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